FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ケース39/クリスティアン・アルヴァルト監督

ケース39 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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 アンファンテリブル、もしくはそれを思わせる内容のヒロインは、黒髪の、目元の冴え渡ったような美少女が演じると、さまになる。ハウメ・コジェ=セラ監督『エスター』のエスターといい、この『ケース39』のリリーといい。
 児童福祉専門のソーシャルワーカー、エミリーは、親に虐待されていると思しき少女リリーと知り合い、聡明そうで愛らしい彼女に好感を抱く。リリーもまた、エミリーを慕った。そのように見えた。ある夜、リリーから助けを求める電話を受けたエミリーは、彼女の家に駆けつけ、リリーの実の両親が、娘を焼殺しようとしているところ間一髪で止めた。
 エミリーはリリーとともに暮らし始める。リリーは賢い少女だった。そう、不気味なほどに。千里眼かと思われるほどなんでも見通し、話術に長け、他人を操るのがうまかった。
 やがてリリーと、そしてエミリーの周囲では、不幸と破滅と死とがあふれるようになる。
 『エスター』同様、「小説で言うならば、語り手役の女性の、ヒロインへの好意」→「痛ましい事件」→「高まっていく語り手のヒロインへの疑惑」→「疑惑はやがてはっきりとした憎悪、恐怖に」→「しかしそのことを訴えても、周囲は誰も信じてくれず、かえって語り手が孤立」→「二人の女の正面からの対決」の一連の流れには、細かなエピソードの積み重ね、例えば語り手のみが分かるヒロインの異常性を示す逸話や、身近なものの死など、語り手の方が精神異常を疑われてしまう事情などのしっかりとした描写が欠かせないのだが、その点でもこの『ケース39』はうまくできている。
 思っていたより、はるかに面白かった。アンファンテリブルもの、ホラータッチのサスペンス映画が好きな人にお勧め。

エスター [DVD]

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