FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

忘れえぬ夏を捧げて/メアリ・バログ

忘れえぬ夏を捧げて (ヴィレッジブックス)

忘れえぬ夏を捧げて (ヴィレッジブックス)

 リサ・クレイパスやサブリナ・ジェフリーズのようなセクシーさには欠け、どちらかと言えば地味な作風だが、クラシカルで折り目正しく、ヒストリカルロマンスの正統派の一つという印象を受ける。舞踏会やクリケットの場面など、華やかさと懐かしさを同時に感じさせる。
 戦争から帰還し、過去の凄惨な記憶を忘れるべく放蕩に身を持ち崩すキットことレイヴンズバーグ子爵クリストファー・バトラー。幼くして両親とは離れて育つこととなり、長じて兄妹同様に育った従兄と結婚することになったものの、結婚式当日に相手に隠し妻がいたことが発覚し、破談となった美貌の貴婦人ローレン・エッジワース。
 キットは親の決めた婚約者と結婚したくないため、ローレンに近付き、かりそめの婚約者になるよう、誘いをかけた。ローレンはそれを受け入れ、二人は一夏をともに過ごすこととなった。やがてこの「契約婚約」は、本当の恋愛に発展していく。
 いい意味で、一昔前の良質のロマンス映画を見ているようだ。キットがローレンに泳ぎを教えるシーンなど、最高にロマンティックである。
 メアリ・バログは初めて読むのだが、いい作家を見つけたと思う。すでに“シンプリー・シリーズ”という四部作のシリーズの三作品までが邦訳されており、その二冊目『ただ愛しくて』では、キットの弟シドナムがヒーローをつとめるとのこと。入手が楽しみである。

ただ愛しくて (ヴィレッジブックス F ハ 11-2)

ただ愛しくて (ヴィレッジブックス F ハ 11-2)