FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

キッド・ピストルズの醜態/山口雅也

キッド・ピストルズの醜態

キッド・ピストルズの醜態

 キッド・ピストルズ&ピンク・ベラドンナシリーズの第六作目。「だらしない男の密室」、「≪革服の男≫が多すぎる」、「三人の災厄の息子の冒険」の三篇が収録されているのだが、今回はホラー・SF映画を想起させる設定のものが多く、ネタバレのためにタイトルは伏せるが、三篇に共通して特に某ホラー映画の強い影響を感じた。
 ラストの「三人の災厄の息子の冒険」は「山口雅也はこの設定をどう料理するのであろう」とわくわくするような始まり方をしつつ、あまりにありがちなオチでがっかりした。残りの二つは良かった。
 「だらしない男の密室」。あまりに乱雑な部屋に閉じ込められた状態で目を覚ました作家の男、傍らにはばらばら死体、このままでは自分が犯人にされてしまう……「部屋があまりにも乱雑な理由」、「作家が閉じ込められていた理由」、最後にピンク・ベラドンナが示す真の解決、どれもがすべて面白い。
 「≪革服の男≫が多すぎる」。女性の皮を剥ぐ連続猟奇殺人犯≪革服の男≫。彼はすでに逮捕されているはずだが、町である女性が≪革服の男≫そっくりの人物を見かけた。やがて≪革服の男≫の手口そっくりの凄惨な殺人事件が起こる。模倣犯か、それとも≪革服の男≫が収監されている身でありながら犯罪を行ったか。丁寧に埋め込まれた伏線と、「あることが逆転していた」という構図が魅惑的。
 前作『キッド・ピストルズの最低の帰還』よりずっと出来のよい短編集だった。