FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

シューマンの指/奥泉光

シューマンの指 (100周年書き下ろし)

シューマンの指 (100周年書き下ろし)

 音楽にはさっぱり詳しくない当方にも、面白く読めた「本格音楽ミステリ」である。もっとも中盤辺りまで書いてあるのは音楽と、天才美少年ピアニストのことばかりである。
 医師の「私」は、留学中の友人から、ピアニストとして活躍しているはずのない人間が、ピアニストとして活躍しているという手紙をもらった。「私」は回想する。
 かつて音大受験生だった頃、友人だった美少年、永嶺修人。容姿端麗にして圧倒的な才気を持つ彼に、「私」は同性ながら恋をしていた。だが修人の恋人として登場した一人の少女が、そして卒業式の夜に起きた殺人事件が、彼らの関係に破局を呼び、修人の指に致命的な怪我を負わせる。
 素人の哀しさ、音楽の部分はさっぱり理解できない(分かるのは音楽家の名前ぐらい)なのだが、単純にミステリとして楽しめた。
 もしかして冒頭の感じから、「すべては幻覚でした」などというオチがつくのではないかと考えてしまったが、それはなかった。もやもやとしたものは残るが、それでも話はきれいにまとまっていく。
 物語のキーとなる人物の名前に隠された秘密にはにやり。