FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

船乗りサッカレーの怖い話/クリス・プリーストリー

船乗りサッカレーの怖い話

船乗りサッカレーの怖い話

 『モンタギューおじさんの怖い話』の姉妹編。こちらも、少年少女を相手に、謎めいた男性が、「怖い話」を幾つも語り続ける趣向だ。男の話に登場する少年達、青年たち(船乗りが多いゆえ、今回はほとんどが主人公は年若い男性)を見舞う運命は、やはり情け容赦のないものである。
 コーンウォールの土地の、断崖にある古い宿屋。ひどい嵐の夜、イーサンとキャシーの兄妹は父親の帰りを待っていた。母を失ってから、父親は酒に溺れ、ずいぶんと人柄が変わってしまった。だが病に倒れた兄妹のため、ひどい天候にも関わらず、医師を呼びに行ってくれている……。
 やがて兄妹だけの宿屋に、一人の若くハンサムな男が屋根を求めてやってくる。海軍少尉候補生の軍服を着た男はサッカレーと名乗った。嵐に痛めつけられたのか、全身から水が滴り落ちている。
 彼は、兄妹が「怖い話」が大好きだと知ると、自分の知る話を語り続ける。
 今回は主人公のほとんどが男性、そして舞台は船の中や遠い異国のものが多い。船の中という設定はその逃げ場のなさゆえにサスペンス性を盛り上げ、遠い異国という舞台はエキゾシチズムをかきたてる。
 場所が限定されているのに、語られる恐怖のバリエーションは豊かで、モンスターものから、集団発生するいきもののもたらす恐怖を描いたもの、狂気もの、呪われた器物を扱ったものもある。そして、海と船を扱った怪談集ならば外せない、某テーマも真打ちで登場する。
この連作短編集が良きところは、サッカレーの正体が分かってからも気が抜けないところ。
 「怖い話」が好きな向きには面白い一作。シリーズと表現していいのか分からないが、『モンタギューおじさんの怖い話』と合わせて良質のシリーズである。