FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ハイランドの炎に掠われて/ポーラ・クイン

ハイランドの炎に掠われて (ラズベリーブックス)

ハイランドの炎に掠われて (ラズベリーブックス)

 十七世紀スコットランドを舞台にしたロマンス小説。それぞれ三百年前から対立する氏族の属する男女の恋愛を描いたもので、べたな言い方をするならばポーラ・クイン版『ロミオとジュリエット』だ。全体的に甘さは控えめで、ヒーローとその妹がかつて受けていた仕打ちも情け容赦のないものであり、ラストはハッピーエンドとは言え、中途にはかなり凄惨な描写もある。
 三百年敵対している二つの氏族、マクレガーとキャンベル。マグレガーの族長ロバートとその妹マーガレットは、子供の頃にキャンベル氏族に捕まり、九年間を捕虜として凄まじい虐待を受けながら過ごした。敵をすべて殺して妹とともに脱出し、成長したものの、ロバートの心にはキャンベルへの復讐心が濃く残っていた。一方、キャンベルの氏族の族長の姪ケイトは、父親をロバートに殺されたと聞いており、憎しみを抱いていた。
 ロバートとケイトは戦場で出会い、ロバートはケイトを人質とするべく連れ去った。敵同士ではあったが、旅をともにするうちに二人は惹かれ合う。しかしロバートにとってケイトは自分達兄妹を地獄に陥れた張本人の孫娘(マーガレットはそのとき受けた傷ゆえ、現在でも障害を負っている)であり、ケイトにとってはマクレガー氏族のものを愛するのは、同朋から抹殺されることを意味する。二人の恋は成就がひどく難しいものだった。
 ロバートとケイトのロマンスは作者の創作だが、マクレガーとキャンベルの対立は歴史的事実だそうだ。捕虜や敵に対する態度が苛烈きわまりないという点では、ヒストリカルらしいヒストリカルである。
 べたべたとした印象は薄く、全体的に乾いた雰囲気で統一されている、迫力のあるロマンス小説。