FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

1408号室/ミカエル・ハフストローム監督

1408号室 [DVD]

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 スティーヴン・キングが原作で、ホテルが舞台のホラーで、スタンリー・キューブリック監督『シャイニング』が有名だが、この『1408号室』もなかなか面白い。
 マイク・エンズリンは、オカルト絡みの場所を訪ね歩き、その体験を元にして本を出版している、売れない色物作家(かつては色物ではない作品を執筆していた)。ただし、マイク本人は心霊現象を頭から信じていなかった。どれほど物騒な出来事が起きた場所で寝起きしようが、彼の身には何一つ起こらなかったからだ。
 ある日、彼はニューヨークはドルフィン・ホテル、1408号室を訪ねる。ホテル側、ことに支配人オリンは執拗に、そして必死にマイクを止める。かつてこの部屋で生命を失ったものは変死自然死を含めて五十六人、一時間と正気を保った人間はいないのだと。だがマイクは支配人の制止を振り切り、1408号室に泊まることとした。1408号室は忌まわしい印象など何一つもない、清潔でありふれた部屋だった。
 しかしそこは邪悪ななにかが宿った部屋だった。空間そのものが歪んでいる。恐怖に支配されるマイクをもっとも苦しめたのは、病死した幼い娘ケイティの記憶、そして彼女の亡霊だった。
 大都会の中の、ホテルの一室というほぼ限定された舞台にした秀作ホラー映画。屋敷というには手狭だが、立派な「幽霊屋敷」ものの一つである。派手な演出こそないものの、じわじわと精神をいたぶる様が恐ろしい。恐ろしい場面としては「変わる見取り図」、「向こう側の男」、「目が覚めたら病院」の三つだろうか。
 泣かせの要素があるし、ラストがハリウッド調なので、生粋のホラー映画ファンはそっぽを向くかもしれないが、「日頃あまりホラーは見ないけれど、ちょっと怖いものが見たい」と思う映画ファンや、当方のような幽霊屋敷映画が好きな人間は絶対に楽しめるはず。これは良かった。
 壮大な大自然の中で、親子三人だけがホテルに残される『シャイニング』と、大都会にある、そこそこ大きなホテルの「開かずの間」(ホテルそのものにはたくさんの客とスタッフがいるにも関わらず、誰も災厄に気付かず、助けてくれない)が描かれるこの作品との対比も面白い。
 満足の一作。

シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]

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