FAIRY TALE

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黒揚羽の夏/倉数茂

(P[く]2-1)黒揚羽の夏 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[く]2-1)黒揚羽の夏 (ポプラ文庫ピュアフル)

 ピュアフル小説賞「大賞」を受賞し、ポプラ文庫ピュアフルから出版された一冊である。おそらくは、まだ肉体が大人になりきっていない人々をメインターゲットにしたであろうレーベルなのに、忌まわしいほど妖しく、背徳的な物語だ。
 「思春期の兄妹の、田舎での一夏の冒険」という言葉から想起される、溌剌とした明るい物語ではない。「青春の光と影」の光は感じられるものの、影の部分の濃い物語である。
 両親の離婚の話し合いのため、千秋、美和、颯太の三兄妹は、祖父のいる東北の田舎に預けられた。かつて鉱山の発展によって支えられ、現在はその鉱山も衰退し、限られた複数の家が権力を分かち合っている。
 小学校五年生の少女、美和は炎の夢と、水たまりに映る女の幻影に悩まされる。そして祖父の家の押入れから見つけた、六十年前に病死したとされている少女の日記には、異様な映像を友人から見せられたこと書かれていた。そして美和は、川に行ったとき、失踪していた少女の水死体を見つけてしまう。この町では古くから、少女の神隠しが続いていた。
 中学校二年生の少年、千秋は、自分の同性愛的傾向に気付き、悩んでいた。母に捨てられ、学校に行かず、都会で餓死ぎりぎりの生活をしており、ついには行方を絶った親友のことも忘れられない。弟妹と祖父の家に来て、町と鉱山の歴史に関心を抱いた彼は、妹の美和や、町で知り合った唯島姉妹とともに、連続少女失踪事件や、土地の暗い歴史や、現在起きている自動車泥棒事件に絡め取られていく。
 解説で金原瑞人も書いているが、少年少女達が、町の有力者の家庭の青年から、「幻のフィルム」を見せられるシーンが圧巻。残忍な場面とグロテスクなイメージに打ちのめされる。
 鉱山と、水と、炎の残映から、いつまででも逃げられないような作品。奇怪な迫力に呑まれそうになる傑作。

始まりの母の国 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

始まりの母の国 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

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