FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

魔術師たちの秋/倉数茂

 熱病に浮かされて見る夢のように、蠱惑的で忌まわしい物語だ。前作『黒揚羽の夏』と登場人物の一部が被り、同じく青春の光と影、ことにその影の濃さを描いた小説で、七重町という土地の歴史はますます暗く、七重町という言葉は、七重八重に陰惨な事件、陰惨な歴史を隠し持つことから名付けられたのではないかと疑われるほどだ。
 『黒揚羽の夏』から三年。父親の経営する工場が倒産、行き場のない怒りを抱えたケンジは、ツキオという謎めいた少年と出会った。ツキオはなにかから逃げており、一方ではツキオを執拗に追う老人がいた。
 千秋は三年ぶりに、七重町へと足を運んだ。妹の美和は幻影を見る力がますます強くなり、心身の調子を壊していた。やがて町に住民の睡眠を調べるセンターがあることを知る。
 そして登場人物達の上に町の暗部が触手を伸ばしてくるのだ。
 静さん、相変わらず格好いい。
 この妖しい蜘蛛の糸さながらのきらびやかで残酷で、どこか粘着質な物語は、あっさりとした結末を迎える。まだまだ物語は終わらず、よって七重という町が紡ぐ悪夢も終わらないよいうことなのだろうか。
 シリーズが続くとしたら、春と冬の物語が楽しみである。
 傑作。