FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

警察署長/スチュアート・ウッズ

警察署長〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

警察署長〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

 スチュアート・ウッズは、当方にとってはゴシックホラー『湖底の家』の作者だった。彼に『警察署長』なる代表作があるのは知っていた。だが、これまで読まなかったのは、あまりに傑作との評価を聞きすぎていたため、かえって手を出しづらかったためだ。
 今回、思い切って読んだ。構えることなどなかった。たやすく物語の世界に没頭できるからだ。そして評判に違わぬ傑作だった。
 これはある連続殺人事件を巡るミステリであり、ジョージア州の田舎町デラノの発展と頽廃を巡る年代史であり、アメリカそのものの歴史を語る小説でもあり、黒人差別を扱ったお話だ。国レベルの大きな物語から、ごくごく個人的な小さな物語までものが、上下巻の二冊の文庫本の中に詰まっている。
 物語の舞台は、1920年の冬に幕を開ける。デラノはジョージア州の片田舎の町、元農夫の若き初代警察署長ウィル・ヘンリー・リーは初めての大事件に出くわした。崖下で若者の全裸死体が発見された。亡骸に残っていたのは酷い取調べの痕跡、リーはそれがK・K・Kの仕業ではないかと考え、捜査を開始する。その捜査は……なかなか終わらない。そののち何十年と続き、三代目の警察署長まで引き継がれていくこととなる。実は犯人は中途で読者に明かされる。だから各警察署長と犯人との攻防が読みところの一つだ。町そのものができたときからずっとデラノに深く関り、生涯に渡ってリー家とも親しく付き合ってきた銀行家ホームズの幕切れの慨嘆がなんとも切ない。
 小説の醍醐味を感じさせる作品。映像化もされているらしい。

警察署長〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

警察署長〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)