FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

魔女の館/シャーロット・アームストロング

魔女の館 (創元推理文庫)

魔女の館 (創元推理文庫)

 アームストロングの一つの到達点。この先、邦訳や新訳作品がどれほど出版されたとしても、この『魔女の館』を超えることはなかなかできないのではないだろうか(むろんこれ以上の作品が出てくれれば、作者のファンとして素直に嬉しい)。
 『風船を売る男』と同様、健康的な若い女性がヒロインの一人だが、悪役は『風船を売る男』よりも、悪辣で印象深い。ヒロインの夫を監禁する狂気の老女ではなく、ヒロインの行く手を遮ろうと画策する双子の兄妹のことだ。彼らの近親相姦めいた、爛れた関係は、快活な良妻賢母たるヒロインと好対照をなしている。
 若き大学講師パットは、同僚アダムズの不正が許せず、彼を追った。問い詰め、逆襲されるものの、一命はとりとめた。それもひどく異様な形で。手傷を負った彼は、パットを死んだ息子だと信じる、老いた狂女によって監禁されることとなったのだ。
一方パットの妻、アナベルは行方の分からない夫を心底案じ、行動に出た。警察も大学もあてにならなかった。ならば自分の力で夫を探すほかない。アダムズも失踪しており、アダムズの娘ヴァイオレットも父を心配していた。アダムズの後妻セリアと、その双子の兄セシルは、それぞれの家族を探す女性達をひんやりとした目で眺めていた。
 古典的なサスペンスの魅力がたっぷりと詰まった一冊。
 かつてはトパーズプレス<シリーズ百年の物語>の一巻として刊行されていた作品が、創元推理文庫として出版され、手に取りやすくなった。良いことだ。次は東京創元社クライム・クラブで出ていた『夢を喰う女』を改訳、出版してくれないものだろうか。ハヤカワ・ミステリに入っている『疑われざる者』も改訳して出してくれたら、もっと嬉しい。

風船を売る男 (創元推理文庫)

風船を売る男 (創元推理文庫)

サムシング・ブルー (創元推理文庫)

サムシング・ブルー (創元推理文庫)

↑アームストロングの佳作群

疑われざる者 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

疑われざる者 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

夢を喰う女 (1958年) (Crime club〈第8〉)

夢を喰う女 (1958年) (Crime club〈第8〉)

↑この二冊も新刊で読みたい。