聖餐城/皆川博子
- 作者: 皆川博子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/04/20
- メディア: 単行本
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「ドイツ三十年戦争」……すみません、高校生の頃、世界史で聞いたことがあるような気がしますが、詳しく覚えてないんです、ごめんなさい……と分厚い本に向かって土下座したくなった。読む前にネットで調べ、ある程度知識を得ておいたのだが、一国内の宗教戦争が各家、各国の思惑によって広がり、長引き、ドイツすべてを荒土へと変えた酷い戦争である(どの戦争だってそうなのだが)
「馬の胎から生まれた」とされる貧しい少年アディ。ボヘミアの宮廷に経済的に力もつユダヤ人、コーヘン一族の子息イシュア。なにもかも境遇が違う(イシュアは聡明ながら一種の畸形)二人の少年は、ある日偶然出会った。そして数年ののち、ドイツ三十年戦争の中、傭兵隊長ローゼンミュラーの配下として戦場で名を上げていくアディと、コーヘン一族の一人として戦争ビジネスで力を握っていくイシュアは再び出会う。一見したところ順調に出世していく彼らだったが、アディは当時は被差別民だった刑吏の娘ユーディトへの恋が、イシュアは父や兄に見捨てられ、獄に幽閉された記憶が、それぞれの人生の陰影を落としていた。
豪華絢爛にして頽廃的。皆川博子のことであるから、幻想的な小道具も忘れていない。彼女の代表作の一つとされる幻想歴史小説『薔薇密室』が今一つ琴線に触れなかったので警戒しながら読んだが、この華麗、この物憂さ、この圧巻にはただ舌を巻くばかり。
「戦争って思ったよりお金がかかり、同時に金が儲かるんだな」だとか「このボヘミア王、殴りたいな」だとか「イシュアは兄より父を恨むべきじゃないかな」などと頭の片隅で思いつつ読み進める……いや、物語にただ押し流される。
傑作。ドイツの歴史にはほとんど関心ない当方でさえ滅茶苦茶面白かった。