FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

フェードル アンドロマック/ジャン・ラシーヌ

フェードル アンドロマック (岩波文庫)

フェードル アンドロマック (岩波文庫)

 読んだことのない古典の一作。『フェードル』と『アンドロマック』、二作の悲劇が収録されている。義理の息子に恋し、破滅してしまう王妃の姿を描いた『フェードル』が読みたかったのだが、「女神の呪いがあるとは言え、自分に都合のいいことばかり言ってるんじゃねえ」と思わずヒロインをどつきたくなるような『フェードル』より、片思いと嫉妬の連鎖が、鮮血の惨劇を生む『アンドロマック』の方が面白かった。
  『アンドロマック』は、トロイア戦争の後日譚である。英雄アガメムノンの子オレストは、いとこのエルミオーヌを愛している。エルミオーヌは、婚約者で、トロイア戦争勝利者の一人であるピリュス王を愛している。ピリュスは、元は敵国の英雄の妻で、今は未亡人にして自分の虜囚となったアンドロマックを愛している。そしてアンドロマックは、亡き夫と、己同様捕虜となった息子を愛していた。主要登場人物全員が、どれほど熱烈に口説かれようが、自分の愛するもの以外を見向きもしない。そしてアンドロマック以外の三人は、自分の愛する人が愛するものへの、嫉妬に苦しんでいた。
 オレストが、ピリュスの宮廷に現れたときから、なにかのメカニズムが働いたように、登場人物ほとんどを巻き込む破滅劇が始まる。
 しっかりとした骨格を持つ物語(この場合は戯曲だが)は、長い時間を経ても生き残るし、面白いものだという証明のような作品。細かい点を変えれば、現代の日本でも同じような悲劇が描けそうだ。ちなみにラシーヌの劇も、古代アテナイのエウリーピデースと古代ローマウェルギリウスが書いたアンドロマックの劇を元にしているという。