FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

アウラ・純な魂/カルロス・フエンテス

フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)

フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)

 メキシコの作家、カルロス・フエンテスの短編集である。購入したとき、目当ては表題作にもなっている「アウラ」だった。
 ある男の伝記を書くため、その未亡人である老女に高額で雇われた青年。彼女の古ぼけた館で、青年は老女の姪を名乗る世にも美しい女性と出会うこととなるというあらすじで、館、謎めいた書物(自分が書く伝記)、宿命の女といくつもの小道具が揃った、良きメキシコ産ゴシックロマンだった。
 しかし、もっとも怖く、もっと面白い話が二つもあった。トップバッターである「チャック・モール」と、もう一つの表題作「純な魂」だった。
 「チャック・モール」……チャック・モールとは、古代メキシコのマヤ文明の雨の神である。溺死した公務員が残した手記は、語り手の男にとって狂気を感じさせるものだった。公務員である男は、たまたま購入したチャック・モールの石像に悩まされていた。石像が日々変化する、生命あるもののように感じられていたようだ。語り手の男が死んだ男の部屋を訪ねたとき、彼は意外なものを目にする。呪われた器物ものの大傑作。この作家の最高傑作だという評判もあるそうだが、それも十分納得できる。短い、なのに怖い。
 「純な魂」。こちらには超常現象めいたものは出てこない。表面上は出てこない。愛の形をした狂気は出てくる。この上なく幸福な幼年時代を共に過ごした兄妹。やがて成長すると、兄は妹をメキシコへと残したままヨーロッパへと旅立った。だが妹の内側から、幸福な子供時代の記憶と兄への愛は消えなかった。やがて兄が異国で、異国の女を心の底から愛したとき、破滅は訪れる。短い、なのに怖いっ!
 他には、やはりゴシックの味わいある「女王人形」も良かった。
 ホラー小説好き、ゴシックロマン好き、恐ろしい妹さんが好きな読者へとお奨めしたい。冗談はさておき一読の価値は絶対にあり。