FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

眠り姫の気高き瞳に/リサ・クレイパス

眠り姫の気高き瞳に (ライムブックス)

眠り姫の気高き瞳に (ライムブックス)

 ヒストリカルロマンスとしてもかなり珍しい、「信仰心の篤い」ヒロインが出てくる一冊である。主人公の少女がロシアの出身ということが関係しているのかもしれない。
 タシアは、ロシア貴族の生まれで、類稀なる美貌を持つ十八歳の少女。彼女は婚約者ミハイルを殺害したかどで、牢獄に幽閉されていた。だがそれは冤罪だった。阿片を常用し、倒錯した性に溺れ、頽廃的な生活を送るミハイルを嫌ったタシアは、婚約を解消してもらうよう直接会いに行き、そして彼の亡骸を見つけたのだ。
 タシアは、伯父や使用人の手を借り、仮死状態を死と偽って脱獄、親戚のつてを頼ってイギリスへと脱出する。イングランド貴族ルーカスの屋敷で、その娘エマの家庭教師として働くうち、エマと親しくなり、やがて男やもめのルーカスと惹かれ合うようになる。
 だが、タシアを着け狙う復讐者がいた。肉親の中で、たった一人ミハイルを弟として愛し気遣っていた兄のニコラスだ。ニコラスはタシアを犯人と決め付け、生きていると知るやいなや、執拗に捕らえようとする。
 ヒロインが、これまでのリサ・クレイパス作品には存在しなかった人物造形であり、またロシアと英国を行ったり来たりするストーリー展開でもあるため、なかなか新鮮だった。
 聖女タイプ、もしくは高貴な姫君タイプのヒロインが読みたい読者にいいかもしれない。エマをヒロインとした、続編の『火の鳥と幾千の夜を』が二〇一二年二月に出版されることが決まっている。

火の鳥と幾千の夜を (ライムブックス)

火の鳥と幾千の夜を (ライムブックス)