FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

コージー作家の秘密の原稿/G・M・マリエット

コージー作家の秘密の原稿 (創元推理文庫)

コージー作家の秘密の原稿 (創元推理文庫)

 ミス・ランプリングはセント・エドムンド=アンダー=ストウという小さな村にひとりで住んでいるのだが、というのも、ただでさえ少なかったその村の人口は、なぜか異様に高い犯罪率のせいで残すところあとひとりになっていたからだ。(本書27ページより) 


それはすでに「村」とは呼べない代物なのではなかろうか?
 『コージー作家の秘密の原稿』というタイトルと、人気コージー作家とその一家が登場人物ということで、コージーミステリのような内容を想像していたのだが、まるで違っていた。
 ややこしい人間関係と、辛辣な観察と、ひねくれたユーモアが炸裂する、いかにも英国女性ミステリ作家らしい本格ものだった。ちゃんと舞台もマナーハウスである。
 大人気のコージーミステリ作家(前述のミス・ランプリングもので売れに売れている)エイドリアンは、自分の遺産をちらつかせて、彼から見れば全員ろくでなしの子供達を振りまわしてきた。そんなエイドリアンが再婚すると知り、「自分たちの取り分が減る」と子供達は愕然とする。だが、もっと愕然とするのはそれからだった。
 相手の女性ヴァイオレットは、かつて夫殺しの嫌疑をかけられ、マスコミで騒がれた人物だった。その翌朝、この家族の一人が減り、セント・ジャスト警部が部下をつれ、館に乗り込んでくる。
 セント・ジャスト警部シリーズ第一作にして、アガサ賞最優秀処女長編賞に輝いた作品。莫大な遺産を巡る、典型的なマナーハウスもののミステリに見せかけ、クライマックスでの怒涛の展開には唖然。そして拍手。スコットランドの古城が舞台の第二作、大学が舞台の第三作もぜひ翻訳されて欲しい。