FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

タンゴ・ステップ/ヘニング・マンケル

タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)

タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)

 ヘニング・マンケルの小説を読むのは初めてなのだが、無茶苦茶面白かった。警察小説が読むのは苦手な当方にとってさえ、である。訳者によるあとがきに、「原書発行後まだ十年も経たないなか、すでに世界の犯罪小説のクラシックの一つに数え上げられている」とあるが、それも分かる。
 スウェーデンナチス。これまで当方の頭の中であまり結びつかなかった、この二つの関わりが、メインとして据えられた警察小説である。
 森の夜、家の中で人形とダンスのステップを踏む定年退職した元警官ヘルベルト・モリーン……のっけから印象的な幕開けである。そのヘルベルト・モリーンが拷問された上、殺された。モリーンのかつての後輩で、現在は舌がんの恐怖に怯えているステファン・リンドマンは、そのことを記事で知った。やむにやまれぬ衝動にかられた彼は、モリーンの住んでいた家を訪ね、土地の警察官と協力しながらも独自の調査を続ける。モリーンの隣人、アブラハム・アンダソンも殺害され、これは連続殺人かと、彼らは頭を悩ます。
 ところがもう一人、頭を抱えている男がいた。モリーンを拷問して殺害した犯人アーロン・シルベシュタインだ。彼は確かにモリーンは殺したが、アンダソンは殺していないのだ。一体誰が?モリーンを惨殺したことに後悔はないが、このままだと、自分は二重殺人の犯人にされてしまうのではないか。
 こうしてステファンの調査、土地の警察官達の捜査、アーロンの行動、この三つを軸に物語は力強く、テンポ良く展開していく。モリーンを殺した犯人は読者に実にあっさりと明かされるのだが、アンダソンは誰に殺されたかが最後まで分からず、犯人探しの妙味もある。
 傑作。

タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫)

タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫)