FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

古城ホテル/ジェニファー・イーガン

古城ホテル

古城ホテル

 己の犯した罪のために刑務所に囚われた男が、更生プログラムの一環として、城に囚われたのではないかという考えを抱く男の小説を書くという物語である。
 小説を書いているのは、アメリカの刑務所で服役中の犯罪者レイ。
 小説に書かれているのは、中年にさしかかりつつも未だ負け犬としての人生を送っているダニー。彼は東欧の某国に城に招かれる。実業家として大成功を収め、ホテルに改装するべく城を買い取った従兄弟のハワード……子供の頃は苛められっ子で、かつてダニーが生死に関わるほどのひどい仕打ちをした……が、手を貸すように頼んできたからだ。古城の塔にはかつての当主だった老男爵夫人が住み着いており、ホテルのプールには、ある双子が溺死したという伝説が流れてきた。合い続く不思議な出来事、現代の電子機器とはすべて切り離された生活にダニーは次第に病み、ハワードに対する猜疑心を募らせていく。
 あやしい書物(彼の小説)、城と牢獄、亡霊と狂女、地下迷宮、過去の忌まわしい記憶……ゴシック小説の各特徴をすべて揃えていながら、いまひとつ気分が乗らなかったのは、「ぱきぱきとした」と表現したくなるような、乾いていて簡潔でどうも潤いに欠ける文章と台詞のせいだった。ゴシック小説に不可欠な湿潤、妖しく濃密な雰囲気というものがやや足らない。
 しかしながらクライマックスからラストの着地に至るまでの物語の盛り上がりには、それらの欠点を相殺するものが感じられる。主人公の書く小説が、現実の人間と重なっていくという展開は陳腐とも表現するのも恥ずかしいほどありふれたものだが、この『古城ホテル』ではうまく使っている。どう考えても陰惨な結末なのだが、ある種の爽やかささえ感じさせるのはなぜなのだろう。
 帯の「ゴシック・ゴーストストーリー」という言葉にはやや首を傾げるものの、なかなか面白い小説だった。