FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

黄昏の遊歩者/A・L・マカン

黄昏の遊歩者

黄昏の遊歩者

 オーリアリス賞ホラー部門を受賞した作品である。帯には、「ゴシック歴史メロドラマ」や「本格ゴシック純文学小説」(どちらも長いな)がある。
 しかし実際に読んでみたところ、本書が「ホラー部門」を受賞したのは不思議である。ゴシック小説的要素がなくもないが、「ゴシック歴史メロドラマ」や「本格ゴシック純文学小説」といった形容も今一つぴんとこない。
 当方の見たところ、これは数奇にして不思議な運命を辿ったある家族の、二代に渡る年代記である。時代は十九世紀末、オーストラリアがイギリスからの独立を目前に控えたところから幕を開け、オーストラリアが世界大戦へと進んでいくところまでが描かれる。メルボルンに暮らすウォルターズ家。平凡な家族だった、とは言い難い。ある男は狂気に陥り、不可思議なノートを残して自害する。ある女は肉親をも含めた、すべての異性を虜とする魅惑を持ち、周囲の人間を振り回す。ある男は欧州へと渡り、肉親の残したノートに振り回されるように、頽廃的な生活を送ることとなる。
 歪んだ妄執をひとつのテーマとしているわりには落ち着いた筆致で描かれた小説で、好感が持てる。激動の時代を舞台にした風変わりな年代記、面白かった。オーストラリアの作家で、もっとこういう小説があれば読みたいものである。