FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

わたしだけの少女/トーマス・アルトマン

わたしだけの少女 (創元ノヴェルズ)

わたしだけの少女 (創元ノヴェルズ)

 作者トーマス・アルトマンは、キャンベル・ブラック名義では『レイダース/失われた聖櫃』などのノベライゼーション、キャンベル・アームストロング名義では『ジグが来る』や『闇から来た刺客』などハードボイルドタッチの作品を発表している多彩な才能を持つ作家。
 この『わたしだけの少女』を含めた、トーマス・アルトマン名義では、サイコサスペンスを主に執筆している。『わたしだけの少女』と『ブラック・クリスマス』という邦訳があり、『ブラック・クリスマス』を先に読んだ。クリスマスシーズンに若い女の子が次々と惨殺されていく、良くも悪くもB級ホラー映画にしたら似つかわしい、B級サイコサスペンス小説だった。
 この『わたしだけの少女』はぐっとシリアス、ぐっと繊細な物語である。
 平凡な日常に倦んだ専業主婦エイミーが、自分の時間を捻出しようとして、<ベビーシッター組合>なるものを立ち上げようとする。スーパーマーケットの掲示板にちらしを出し、互いに子供を預け合う主婦を募集する。やがて四人の女性が集まる。エイミーの目には、誰もが信用できそうな女性に見えた。
 だが、その中に一人狂人がいた。我が子に死なれ、夫にも去られ、そして我が子に似たエイミーの娘、シャーロットに執着する女が。
 序盤の幸福だが消えない倦怠感やら、夫や<ベビーシッター組合>のメンバーを含めて誰もが信用できないという不安と恐怖と混乱やら、女性の心理描写が出色の出来栄え。ラストも完璧なハッピーエンドとは言えない。
 読んでいてふと思い出したのは、シーリア・フレムリン『夜明け前の時』だった。もっともフレムリンの作品はずいぶんと昔に読んだから、おぼろげな記憶に頼ってのことだ。
 秀作。

ブラック・クリスマス (創元ノヴェルズ)

ブラック・クリスマス (創元ノヴェルズ)

夜明け前の時 (創元推理文庫)

夜明け前の時 (創元推理文庫)