FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

愛おしい骨/キャロル・オコンネル

愛おしい骨 (創元推理文庫)

愛おしい骨 (創元推理文庫)

 キャシー・マロリーのシリーズは面白く読んだが、ノン・シリーズものの『クリスマスに少女は還る』は琴線に触れるものがなかった。だから、この『愛おしい骨』を手に取るかどうか迷ったが、好みの「帰郷もの」であることと、下手に感動を狙っているのではなさそうだったので、手に取った。結果、なかなか面白かった。
 森へと足を踏み入れた子供たち、しかし戻ってきたのは一人だけという設定が、タナ・フレンチの長いサスペンス『悪意の森』を連想させられる。あの物語で森に行った子供たちは幼い友人同士だったが、こちらはティーンエイジャーの兄弟だ。生まれながらのカメラマンで、常に写真を取って歩き、ときには人にそれを売っていた弟ジョシュアは森に消えた。戻ってきたのは、兄のオーレンだけ。そののちオーレンは家を離れ、二十年後に田舎の、小さな町にようやく帰郷した。母親代わりの家政婦ハンナに嘆願されたからだ。父親の元判事ヘンリーは半ば狂っていた(愛犬を死後剝製にして飾っている!)。そして、なにものかが弟の骨を少しずつ玄関先に置いていく。
 やがて森の中で白骨が発見される。一人は男のもの、もう一つは女のものだった。
 町の人間関係は、相変わらずひどく閉鎖的だった。だが住人は、互いに知らない顔を持っていた。オーレンのかつての情人だったホテルの女主人、怪物的な容姿を持つ図書館司書、その息子で、オーレンとその亡き弟に敵意を向ける副保安官、妻に歪んだ愛を抱く弁護士、アルコール中毒のその妻、オーレンの幼馴染で鳥類学者のその娘、そして天才的な知能を誇る元警官。
 彼らが織り成す人間関係はひどくグロテスクで、どこか痛ましい。作者の常として、主要人物は「特別な才能・魅力を持つ人間」揃いなのだが、それもまあ嫌味にならずに終わっている。
 犯人にはさして意外性はないのだが、どぎついとも言えるほど強い個性を持つ登場人物達による人間ドラマはたっぷりと堪能できる。
 キャロル・オコンネルの最高傑作は『魔術師の夜』という意見は変わらないが、この『愛おしい骨』は次点の作品として挙げられる。

魔術師の夜 上 (創元推理文庫)

魔術師の夜 上 (創元推理文庫)

魔術師の夜 下 (創元推理文庫)

魔術師の夜 下 (創元推理文庫)