FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

魔術師の夜/キャロル・オコンネル

魔術師の夜 上 (創元推理文庫)

魔術師の夜 上 (創元推理文庫)

 キャシー・マロリー・シリーズの第五作にして、最高傑作。解説でも指摘されているよう、前作『天使の帰郷』まででマロリーの過去には一通りの決着がついているので、この作品から読み始めても大丈夫。むろんシリーズ刊行順に読んでも面白い。
 実に絢爛たるグラン・ギニョールで、その暗さと煌びやかさの前では、マロリーのあまりにも特異な個性……所有しているものは絶世の美貌、ハッキングを主としたコンピューターを操る天才的な才能、凡庸な善悪の判断がほとんどできぬ盗人の魂、そしてマロリー本人は気付いていないが周囲の人間からの畏怖や、愛情や、崇拝といった感情……さえ脇に引いて見える。
 一九四〇年代、パリがドイツ軍に占領されているパリに、若きマジシャン達である彼らはいた。とかく血生臭い時代における愛憎、友情、裏切り、そして殺人事件。彼らの仲間の一人、マラカスの妻ルイーズは、マラカスの演技の最中に死んだ。それからもずっと、マラカスはルイーズの幻とともに生きている。彼らの確執は、それから数十年を経て、彼らが老いるまで続いた。
 そして現代。今は老いたマジシャンの一人、オリバーが観客の前で、鮮血にまみれて死んだ。今は亡き旧友マックスの遺作、“失われたイリュージョン”を演じようとして結果だった。老マジシャン達を狙う刃は止まらず、惨劇は続く。マロリーは過去と現在がいびつに絡み合った事件に挑む。好敵手(と呼ぶには邪悪すぎるが)マラカイの存在が圧倒的。
 エピソードも実にマロリーらしいお勧めの一作。

魔術師の夜 下 (創元推理文庫)

魔術師の夜 下 (創元推理文庫)