FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

愛を刻んでほしい/ロレイン・ヒース

愛を刻んでほしい (二見文庫 ヒ 1-1 ザ・ミステリ・コレクション)

愛を刻んでほしい (二見文庫 ヒ 1-1 ザ・ミステリ・コレクション)

 やっぱりこの作家はいい。ロマンス作家としては決して甘くない、むしろ苦い作風なのだが、印象は強く、感動する。
 一八六六年、南北戦争後のテキサス。己の信念から兵役を拒否し、生きて故郷へと帰った男クレイを待っていたのは、それまで親しかった人々からの冷たい眼差しと、日本風に言うならば村八分の仕打ちだった。
 クレイを冷遇した人々の一人に、クレイの幼馴染にして初恋の女性メグがいた。クレイを白眼視する人の大半と同じく、メグも身内を戦争で失っていた。弟と、クレイの友人だった新婚の夫カークだ。
 クレイは彫刻の名人だったため、メグは彼を苦しめるためだけに、戦没者の記念像を造ることを依頼する。クレイはその依頼を受け入れた。だが作業場に通ううち、ただの臆病者だとばかり思っていたクレイの真の姿をメグは知ることとなる。
 クレイがいない間、一人で下の弟達を守りながら農場を切りもりし、生還したクレイを愛しながらも、兄に対するわだかまりを消すことのできない弟ルシアンや、クレイを心から愛する、ルシアンよりさらに年下の、まだ幼い双子の弟達ジョーとジョシュなど脇役の配置もぴったり。
 またヒストリカルロマンスでは、プレイボーイのヒーローとうぶなヒロインという組み合わせが多いのだが、女性に奥手なヒーローと、未亡人のヒロインという組み合わせも新鮮だった。
 傑作。