FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

邪悪/ステファニー・ピントフ

邪悪 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

邪悪 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 「女性検死官が、子供ばかり狙うシリアルキラーと対決する。ただし、舞台は十二世紀のイングランド」がアリアナ・フランクリン『エルサレムから来た悪魔』ならば、「刑事がプロファイリングなどを駆使する犯罪学者と組んで、女性ばかりを狙うシリアルキラーを追う。ただし舞台は、二十世紀初めのニューヨーク」が本書『邪悪』である。
 悪いところをすぐに列挙できるミステリだ。まずミステリ好きの大半は、真犯人とその動機をあっさり見破ることができるだろうし、女性登場人物が人質にとられるという展開も型に嵌り過ぎている。刑事サイモン・ジールとともに主役の一人を張る犯罪学者アリステア・シンクレアは超人型の名探偵ではなく、へまをよくするし、研究のためにどうかと思われるようなこともするし、おまけに……いや、ネタバレ防止のためにこれ以上はやめておこう。美点は多いが、欠点も多い人物で、読んでいて時折苛々とした。
 だが、それらの悪い点を差し引いても、物語に読者を引っ張っていく力を存分に持っており、一息に読むことができた。
 一九〇五年。ニューヨーク郊外で、コロンビア大学の大学院生、将来は優秀な数学者となったかもしれない女性サラが惨殺され、事件を目撃したかもしれないメイドが行方不明となった。
 事件の捜査をする刑事サイモンの前に、犯人が分かるかもしれないという男が現れる。コロンビア大学法学部教授にして、犯罪学研究所の主催者、アリステア・シンクレア。犯罪者の行動と心理を研究する彼は、サラ殺しそっくりの妄想を、前科者フロムリーが持っていたと話す。半信半疑ながら、サイモンは、シンクレアの亡き息子の妻で、今はシンクレアの研究を手伝う未亡人イザベラとともに、フロムリーについて調べるようになる。
 長所と短所、双方をふんだんに持つ作品。歴史ミステリが好きなら、お勧め。

エルサレムから来た悪魔 上 (創元推理文庫)

エルサレムから来た悪魔 上 (創元推理文庫)

エルサレムから来た悪魔 下 (創元推理文庫)

エルサレムから来た悪魔 下 (創元推理文庫)