FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

道化の館/タナ・フレンチ

道化の館(上) (集英社文庫)

道化の館(上) (集英社文庫)

道化の館(下) (集英社文庫)

道化の館(下) (集英社文庫)

 お館ものにして、分身ものである神秘的なこのミステリの書き出しは、こうだ。「ひとり寝る夜は、いまだにホワイトソーン館の夢を見ることがある」。ダフネ・デュ・モーリアレベッカ』のそれとよく似ている。あのゴシックロマンでも「宿命の女」レベッカはすでに死んでいた。この『道化の館』でも、「宿命の女」はすでに死んでいる。アイルランド警察の刑事、キャシーに瓜二つのレクシーは。
 前作『悪意の森』の語り手サムの相棒、キャシーが主人公をつとめるシリーズ二作目。サムもキャシーの恋人として登場する。
 荒れ果てた小屋で見つかった死体を見て女性刑事キャシーは愕然とした。被害者の女性は、キャシーにそっくりだったのだ。しかも被害者が名乗っていたレクシーという名前と、その名前が持つ身分や個性は、本来ならば実在するはずはないものだった。なぜなら、それはキャシー自身がかつて潜入捜査のときに造り上げ、使用していたものだから。このレクシーと名乗っていた女性はなにもので、そしてなぜ、誰によって殺されたのか。
 キャシーはレクシーになり済まし、学生達が共同生活を送る広大な館ホワイトソーン館に潜入する。インテリの学生達とどこか浮世離れした生活を送りながら、被害者の女性の正体と殺人者を探る。
 タナ・フレンチは省略が好きな作家らしく、シリーズ前作『悪意の森』でも肝心なところが読者に明かされていなかった。この作品でも、読むものが知りたいであろうある事実の、「なぜ」そして「どうして」が省略されている。しかし筆力があり、『悪意の森』よりずっと面白かった。
長くて文学的なミステリが好きな人には勧められる作品。
 

悪意の森〈上〉 (集英社文庫)

悪意の森〈上〉 (集英社文庫)

悪意の森〈下〉 (集英社文庫)

悪意の森〈下〉 (集英社文庫)

レベッカ〈上〉 (新潮文庫)

レベッカ〈上〉 (新潮文庫)

レベッカ〈下〉 (新潮文庫)

レベッカ〈下〉 (新潮文庫)