FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

まるで天使のような/マーガレット・ミラー

 つまらない自分語りになるが、私にとって三大サスペンス作家と言えばルース・レンデル、パトリシア・ハイスミス、そしてマーガレット・ミラーである。ゴールデン・ウィークにマーガレット・ミラー『耳をすます壁』を読み返して以来、すっかりとまたこの作家にはまってしまった。
 周囲からは死んだと思われてはいるものの、死体が見つからないある男のことを描いたこのミステリも、やはりミラーお得意の「失踪もの」となるだろうか。
 ミステリとしての謎解きが特別に優れているわけではないのだが(劣っているわけでもない)、異様な雰囲気と神経症めいた登場人物達の描写で、驚くほど惹きつけられる。この熱気と湿度をともに感じさせるような、とかく息苦しい作中の空気は、ミラーが頻繁に作品に登場させるメキシコの空気と似ているのだろうか。
 食い詰めた私立探偵クインは、偶然足を踏み入れた宗教団体で、老いた尼僧から依頼を受ける。パトリック・オゥゴーマンという男を、チコーティという町で見つけてくれ、と。
 クインはチコーティへと向かう。しかしオゥゴーマンはすでに死んでいた。というか、ほとんど全ての人間に死んだと思われていた。嵐の夜に車で出かけたまま行方を断ち、川から車だけが見つかっているのだ。
 ある横領事件を巡り、オゥゴーマンの周囲の人間関係は緊張していた。
 登場場面は少ないのだが、ミセス・ヘイウッドがとにかく怖い。しかもリアル。『これよりさき怪物領域』のアグネスといい勝負である。
 ミラーの持ち味がよく出た傑作。

耳をすます壁 (創元推理文庫)

耳をすます壁 (創元推理文庫)