FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

深い疵/ネレ・ノイハウス

深い疵 (創元推理文庫)

深い疵 (創元推理文庫)

 ドイツの警察小説。非常に読みやすいばかりではなく、謎解き部分もしっかりと造られていて、大変楽しむことができた。重苦しい政治絡みのミステリかと勝手な思い込みを抱いていたのだが、これは伝統的な、確執を抱える名家の一族を登場人物に据えたお館ミステリであり、同時に「過去の罪は長い尾を引く」タイプのミステリである。
 ホロスコートを生き残り、アメリカ大統領顧問をも務めた高名なユダヤ人……それが、嘘だと分かったのは当の老人が殺されたときだった。その正体は自分で称していたのと正反対の、ナチス武装親衛隊員だった。やがてまたしても老人も殺される。二人とも、ドイツの高名な女性実業家ヴェーラ・カルテンゼーとその一族と深い関わりがあった。
 カルテンゼー一族と、連続老人殺人事件には、どのような関連性があるのか。
 ページ数が残り少なくなる都度、謎が一つずつ解けていく快感がある。
 遠い過去の悲劇が絡んでいる点で、想像したのが、ジム・ケリー『火焔の鎖』だ。そして、同時にアガサ・クリスティーの『スリーピング・マーダー』や『五匹の子豚』、『象は忘れない』といった作品群だ。
 ある人物の正体と、現在に起きる連続殺人事件の原因ともなった悲痛な出来事には「ああ」と声が上がる。
 次には、「小さな村」もののミステリである、『白雪姫には死んでもらう』(凄いタイトルだ)が翻訳されるそうだが、こちらが出版されたらぜひすぐ購入して読みたい。そののち、シリーズ第一作から順番に出版されることを願う。
 間違いなく、本年度最高のミステリの一つ。傑作。

火焔の鎖 (創元推理文庫)

火焔の鎖 (創元推理文庫)

五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

象は忘れない (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

象は忘れない (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)