これよりさき怪物領域/マーガレット・ミラー
- 作者: マーガレット・ミラー,山本俊子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1976/01
- メディア: 新書
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ミラーは題名や小題の付け方のうまい作家だが、この書のタイトルはその中でも際立って印象深いものである。『これよりさき怪物領域』……これはミラーもさることながら、訳者の山本俊子も見事に的の真ん中を射抜いた題名をつけたものである。最後まで読み終わってからタイトルを脳裏に浮かべたとき、思わず慄然とする読者もいるはず(私がそうだ)
ちなみに『これよりさき怪物領域』とは作中で失踪する男が、少年時代に自分の部屋の扉に貼っておいたお気に入りの言葉である。男の老いた母が、妻にこのエピソードを説明するシーンは実に怖い。
農場主ロバート・オズボーンが失踪した。人々は殺されたのだろう、と噂した。なにせ食堂からは大量の血痕が見つかり、トマトの収穫のために雇ったメキシコ人の労働者が十人ほどいなくなっていたから。
あとにはロバートの母アグネスや、妻デヴォンなどが残された。ロバートは結婚する前、年の離れた人妻ルースと恋に落ちた。だがルースは溺死した。事故か、自殺か、あるいはそれ以外の理由で生命を失ったのか、それはいまだ分からない。デヴォンは、どこかルースに似ている。
どれほど探してもロバートの死体は見つからない。そしてアグネスはロバートの死を認めようとはしなかった。
優れたタイトル、悲しげで物憂げな雰囲気、失踪というお得意のテーマ、そして結末の不気味な余韻といい、ミラーという作家が持つ特有の雰囲気と、謎解きの面白さががっちりと噛み合った作品。
著者屈指の名作である。
最後が実に恐ろしい。