FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

サイレントナイト/アーヴィング・ヴァン・デン・エショフ監督

サイレントナイト [DVD]

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 「光と闇が生みだす映像美」、「音響効果」、「間の取り方」の三点のツボをすべて押さえた、館もののホラー映画。オランダ産だが、舞台はスコットランドの山中である。
 久しぶりに顔を合わせ、揃ってスコットランドへと旅行へ出かけた旧友の男女七人。夜も更け、焚き火を囲む彼らに襲いかかってきたのは、獰猛な犬たち。酷い怪我を負った一人を抱えつつ、彼らが逃げ込んだのは、廃墟めいた館だった。
 だが、館の内部にも安息はなかった。そここそが、かつて魔女の疑いをかけられ、我が子とも引き裂かれることとなった女性の悲哀と怨念が渦巻く建造物だったのだから。
 哀しげな女の影と不気味な炎が現れるとき、彼らは一人、また一人と生命を奪われていく。
 登場人物すべてが懐中電灯を手にしながら動き、あるいは休んでいる……映画の中の時間は夜で、逃げ込んだ館は電気がつかず、画面もやや薄暗い。凡庸な演出かもしれないが、この薄暗さがいかにも「なにかが潜んでいる」というおぞましさを醸し出すのに役立っている。
 前記のあらすじから分かるよう、ストーリーには新奇なところはまったくない。むしろ平凡陳腐といっていいにも関わらず、なかなか楽しめる作品に仕上がっている。派手な演出もさしてないので、見る人によっては「退屈だ」だとか、「古典的すぎる」だとかいった感想を抱くむきもあるかもしれないが、代わりに折り目正しさや上品さ、そして館ホラーが持つ本来の面白みがある。そして、なにかが起こっているのは明白なのに、観客になにが起こっているのかなかなか知らせず、見るものに焦燥感や恐怖を抱かせる焦らしのテクニックもある。
 ホラー映画にありがちな阿呆で軽薄な人間がおらず、皆が冷静で知的だという点でより好感度が上がった。
 あらすじがゴシックホラー風だったので偶然手に取ったのだが、これは良き拾いものだった。アーヴィング・ヴァン・デン・エショフ監督の名前を頭の中のメモ帳に書き込んだ。次の作品も見てみたい。