FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

この国。/石持浅海

この国。 (ミステリー・リーグ)

この国。 (ミステリー・リーグ)

 サイモン・カーニック『ノンストップ!』と全く同じ書き出しで申し訳ない。
 傑作である。
 石持浅海の論理は、現代世界並びに現実世界を舞台にしたものだと、聞いていて(読んでいて)、頭がくらくらしてくるような奇怪なものが多いが、いびつに設定された世界においては、このいびつな論理が、ひどく説得性があるものとして感じられる。
 一党独裁が続き、国家に対する反逆の罪はなにより重く、体制の権化である治安警察が容赦なく危険分子を排除するこの国。治安警察の一員である番匠は、その冷徹さと国家に対する忠誠心ゆえ、テロリストからはケルベロスとあだなされてきた。本書は、番匠が公開処刑場で、学校で、士官学校で、売春宿で、イベント会場ででくわした事件の数々を描いたものだ。
 特に第一作「ハンギング・ゲーム」と第二作「ドロッピング・ゲーム」が凄い。
 公開処刑場において、番匠とテロリスト達の行き詰まる攻防を描いた「ハンキング・ゲーム」。危険分子達のカリスマ菱田を処刑しようとする番匠。彼は、菱田を信奉する部下が処刑を邪魔することを警戒していた。特に参謀格の松浦と、ライフルの名手で屈強な菊池を。
 実際に菱田の部下達は、処刑を寸前で止めるべく、公開処刑場の観客席から様々な案を練っていた。部下達は一つ一つ策を試していくのだが、いずれも番匠によって遮られる。
 だが……。「最後の一撃」には思わず痺れる。
 この作品で番匠と松浦は宿敵同士となり、その決着は最終作「エクスプレッシング・ゲーム」で描かれる。
 「ドロッピング・ゲーム」では学校、それも小学校を描いている。小学校卒業の段階で、その人間の将来が決まるこの国。目指していたエリートコートから落ちこぼれ、普通コースへと進学が決まった少年が校舎から落ちて死んだ。一見自殺のようだった。しかし少年は希望していたコースに入ることができなくて、落胆していたものの、友達の励ましによって立ち直ったかのように見えていたのだ。彼はなぜ死んだ。
 息苦しい、特異な世界で、そこでしか通用しない論理を描いた名作。普通の現代社会を書いた著作より、はるかに面白かった。石持浅海を代表する一作。