FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

愛しのジェニファー/ダリオ・アルジェント

愛しのジェニファー [DVD]

愛しのジェニファー [DVD]

 ホラーの巨匠たちが自らメガフォンをとり競作する全13回のホラー・アンソロジー・プログラム『マスターズ・オブ・ホラー』第一段の中の作品(毎度似たような書き出しで申し訳ない)。DVDでは、ラッキー・マッキー監督「虫おんな」とともに収録されている……と思ったが、この作品単独でもDVDが出ている。
 これもまたアルジェント作品にしばしば現れる「魔女」を描いた映画である。ただし超自然的な様子はなく、また彼の代表作、例えば『サスペリア』や『サスペリア2』のような、恐怖の中にも妖しい美しさが漂う雰囲気の作品とは、ずいぶんと趣が異なっている。一言で言えば、この『愛しのジェニファー』には耽美的な要素は見られない。その代わり、血しぶき、死体、内蔵はいつもの彼らしくたっぷりと出している。(いかにもつくりものくさい)内蔵に関して言えばサービス過剰だと感じられるぐらい、次から次へと出てくる。
 パトロールの最中、惨殺されかかっている若い女性を、加害者たる中年男を射殺することで救った妻子持ちの刑事。彼は、被害者の女性を助け上げてぎょっとした。彼女……刑事が殺した男は、最後に彼女をジェニファーと呼んでいた……は、世にも素晴らしい肉体と、二目と見られぬ醜悪な顔立ちの持ち主だったのだ。ジェニファーは救出してくれたことに感謝したのか、刑事にしきりになついた。口が利けず、身元がはっきりせず、まともな行き場所のない彼女を憐れんだ刑事は、妻子の待つ自宅へと彼女を連れ帰った。それが身の毛もよだつ惨劇の始まりだった。
 無垢と狂気、醜悪な面差しと魅惑的な肢体、相反する二つの要素をはらむ宿命の女を描いた映画。オチもきれいに決まっている。五十八分という時間に見合った小品として楽しめる。

↑こちらにも収録されている。