FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

メッシーナの花嫁/シラー

メッシーナの花嫁 (1950年) (岩波文庫)

メッシーナの花嫁 (1950年) (岩波文庫)

 ゴシック文学には、近親相姦と肉親殺しとがよく似合う。この『メッシーナの花嫁』にはすべて出てくる。オーストリアの作家であるフランツ・グリルパルツァーの戯曲『先祖の女』を読んだときも、直球のゴシックロマンぶり、頽廃的な美しさに痺れたものだが、ドイツのシラーのこの戯曲の暗鬱な美においては決してひけを取らない(ストーリーにもやや似ているところがある)
 シチリア島のある時代。メッシーナは戦乱の炎に包まれていた。ドン・マーヌエル、ドン・ツェーザル、二人の王子が兄弟でありながらしきりに争っているからだ。二人の争いは、母である女王ドンナ・イザベラの仲裁の前に収まったかのように見えた。
 母は、二人の息子にある秘密があった。実はイザベラには、彼らの妹に当たる娘が一人いたのだが、理由があって他の王族とは離れたところで養育していた。やがて兄弟は、うら若き尼僧に出会い、揃って恋をし、己の妃にしたいと望むのだ。
 うん、ゴシックだ。
 かつてイザベラは、ある男の妃となるはずだった。だがその男の息子が父親から奪い、自分の妃とした。この婚姻は呪わしいものだったか、イザベラが産んだ男女はさらに呪わしい運命を迎える。
 前記のあらすじから大体ストーリーの見解はつくかもしれないが、選び抜かれた言葉の詩美性、暗く背徳的な魅力には、その筋の読者にはこの上ない吸引力がある。
 一番気の毒なのは、尼僧だった。