メッシーナの花嫁/シラー
- 作者: シラー,相良守峯
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1950/09/30
- メディア: 文庫
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ゴシック文学には、近親相姦と肉親殺しとがよく似合う。この『メッシーナの花嫁』にはすべて出てくる。オーストリアの作家であるフランツ・グリルパルツァーの戯曲『先祖の女』を読んだときも、直球のゴシックロマンぶり、頽廃的な美しさに痺れたものだが、ドイツのシラーのこの戯曲の暗鬱な美においては決してひけを取らない(ストーリーにもやや似ているところがある)
シチリア島のある時代。メッシーナは戦乱の炎に包まれていた。ドン・マーヌエル、ドン・ツェーザル、二人の王子が兄弟でありながらしきりに争っているからだ。二人の争いは、母である女王ドンナ・イザベラの仲裁の前に収まったかのように見えた。
母は、二人の息子にある秘密があった。実はイザベラには、彼らの妹に当たる娘が一人いたのだが、理由があって他の王族とは離れたところで養育していた。やがて兄弟は、うら若き尼僧に出会い、揃って恋をし、己の妃にしたいと望むのだ。
うん、ゴシックだ。
かつてイザベラは、ある男の妃となるはずだった。だがその男の息子が父親から奪い、自分の妃とした。この婚姻は呪わしいものだったか、イザベラが産んだ男女はさらに呪わしい運命を迎える。
前記のあらすじから大体ストーリーの見解はつくかもしれないが、選び抜かれた言葉の詩美性、暗く背徳的な魅力には、その筋の読者にはこの上ない吸引力がある。
一番気の毒なのは、尼僧だった。