FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

善意の殺人/リチャード・ハル

善意の殺人 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

善意の殺人 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

 己の使用人から趣味の上で取引のある商人、住んでいる土地の村人にまで「さあ、私を殺人事件の被害者にして」と言わんばかりに憎しみを買っていた富豪が列車の中で殺された。死因はかぎ煙草に仕込まれていた毒物。
 そして容疑者が逮捕され、裁判が行われる。ただし、「被告人」の名前は読者には明かされない。そして被告は真犯人とは限らない。
 被告が誰かを伏せられたまま展開していく法廷ミステリという設定は十分に面白いにも関わらず、その設定がうまく活かされていないきらいがある。おそらくは警察による捜査場面がかなり多く、いわゆる「法廷ミステリ」らしさがあまり感じられないことと、証言者の顔ぶれを知っていけば「残りはこの人しかいない」と思わせる意外性の乏しさが上げられるだろう。
 ものすごくつまらないとは言えないが、「『伯母殺人事件』をもしのぐ、奇才ならではの技巧に満ちた傑作登場!」とはとても言えない。「ハルはこういうものも書いているんだ」と思うにとどめるば、そこそこ楽しめるミステリ。
 最後のひとひねりがあり、ここでやや救われる。