逆さの骨/ジム・ケリー
うん、満足。
一作『水時計』を読んだときは、あまり好みだと思わなかったのに、これほどお気に入りの作家になるとは思わなかった。
『水時計』、『火焔の鎖』に続く<新聞記者ドライデン・シリーズ>の三作目。
現在のところのシリーズ最高傑作『火焔の鎖』と比べればやや落ちるが、それでも十分面白い。
捕虜収容所跡地の脱走路で死体が見つかった、それも死体は収容所の方角を向いていた……脱走ではなく、収容所へと戻ろうとしていたのか?……というなんとも魅惑的な謎に、冒頭から惹き付けられる。解決もしっかりしている。
シリーズのこれまでの作品と同じよう、「過去の罪は長い尾を引く」タイプのミステリで、死体が見つかった場所が捕虜収容所だけに、戦争とその終了後にあった苦い出来事と、それがあるゆえに起きた殺人事件が描かれている。
一方、これまでのシリーズとはやや様相を異にする一面もある。
本格ミステリの世界で、愛妻がしばしば探偵役である夫にヒントを与え、それで事件が解決するパターンがある。このシリーズではほとんど身動きできないにも関わらず、ローラは機械などの力を借りて、なんとか夫に自分の意志や考えを伝え、事件解決の手助けができるようになっている。身動きができない妻が、探偵役の夫を助けるとは、なかなか珍しいのではないか。
もっともコミュニケーションがある程度できるようになったからこそ、夫婦の関係がより複雑になったことは、ローラが「プライヴェートだから」として、ある資料をドライデンに見せず、そのことに(ずっとローラを案じ、心配し、介護してきた)ドライデンが強い怒りを感じる場面に端的に現されている。
佳作。