私は殺される/アナトール・リトヴァク監督
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原作、脚本はルシール・フレッチャー。日本では、早川書房から『スタンフォードへ80ドル』が邦訳されている。遠い昔に読んだはずだが、情けないことになにも覚えていない。
本作は元々アメリカのラジオドラマとして大ヒットしたものを、映画に移し替えたもの。そのためヒロインは回想場面を除いて、ほとんど自宅のベッドの周囲を動かない。登場人物の追憶や、電話越しでの他人とのやり取りを通じてのみ、話が展開していく。一種の密室劇である。
高慢な性格と、すぐ発作を起こす心臓とを併せ持つ、大富豪の娘レオナは、父親の反対を押し切り、貧民街出身のヘンリーと結婚した。ところがその夜、夫はなかなか自宅に帰らなかった。不審に思ったレオナが会社に電話をかけると、混線した電話から「十一時十五分にあの女を殺そう」などといった物騒な会話が聞こえてくる。
慌てたレオナは警察に電話をかけるが信用してもらえない。今夜に限り、使用人もおらず、一人きりだ。待っても、待っても、なかなか夫は戻ってこない。夫を探すため、あちこちに電話をかけ、ヘンリーを奪ったかつての学友や、主治医や、謎めいた男や、ヘンリー本人と電話越しで話しているうち、恐ろしい犯罪劇が浮かび上がってくる。
見るものの大半が気づくだろうに、ヒロインだけが気づかないであろう、ある犯罪の進行の様子が滑稽であり、気の毒でもある。
電話やその混線といった道具立てがいかにも時代を感じさせる。現在ならば小道具は携帯電話やYouTube になるのだろうか。
余談だがこの映画、原題は”SORRY,WRONG NUMBER”といい、「すみません、間違い電話です」ぐらいの意味で、最後の最後になって出てくるのだが、これが実に怖い。この恐怖、この妙味を原題がうまく活かせていないのが残念である。
傑作。
スタンフォードへ80ドル (1977年) (世界ミステリシリーズ)
- 作者: ルシール・フレッチャー,吉野美恵子
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