FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

人食い人魚伝説/セバスチャン・グティエレス監督

 あれ、これ、傑作じゃないか。
 人魚を題材にした怪奇幻想的な作品と言えば、脳裏に浮かぶのは、小川未明『赤い蠟燭と人魚』と、高橋留美子の「人魚」シリーズという二つの傑作だが、この『人食い人魚伝説』もまた素晴らしい作品だった。
 いかにも際物めいたタイトルは裏腹、中途までゴシックホラー風に、そして耽美的に物語は進む。二十世紀初頭。アイルランドで興行をしていたサーカスの一味は、客としてやってきた船長の家に、本物の人魚がいることを知る(この船長の家がまた、素晴らしいのだ)。欲に目がくらんだ彼らは、船長を殺し、美しい女性の上半身と、立派な尾鰭を含んだ魚の下半身を持つ人魚を奪い取り、アメリカへの長い航海へと旅立つ。船員に見つからぬよう、人魚は狭い部屋の水槽に閉じ込められ、鎖で拘束され、サーカスの団員が交代で見張りをしていた。
 高橋留美子の「人魚」シリーズは、「人魚の肉を食えば不老不死になる」という伝説ゆえ、人間が人魚の肉を狙う話だったが、『人食い人魚伝説』はタイトルが示すよう、人魚が餌として人肉を好む。そして人の心を操る能力を持ち、ある目的を隠し持っていた。 
 残念な点は、最後に人魚が変身してしまい、「美貌」と呼べなくなることと、そしてヒロインの妊娠関連がはっきりしないことだろうか。
 そうしたマイナス点を差し引いても、ホラー映画好きにはたまらない魅力があった。繰り返すが、傑作である。

赤い蝋燭と人魚

赤い蝋燭と人魚