FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

唇泥棒にご用心/スーザン・イーノック

唇泥棒にご用心 (扶桑社ロマンス)

唇泥棒にご用心 (扶桑社ロマンス)

 ヒストリカルロマンスものの醍醐味の一つは、「身分違いの恋」である。リージェンシーロマンスのこの一冊では、侯爵令嬢と、別の侯爵の庶子で、馬の繁殖家である二人が恋に落ちる。
 サリヴァンには昼と夜、二つの顔があった。昼間は著名な馬の繁殖家、夜はマスクで顔を覆い、貴族の邸宅に忍び込む怪盗だった。実はサリヴァンはダンストンという侯爵の庶子で、死んだ母は画家だった。ところがサリヴァンが戦争にいっているうちに、貴族である父が、母の絵を勝手に知人友人に渡してしまう。それらを取り戻すため、サリヴァンは貴族の家を漁っていた。
 このことは、ともに戦った戦友達しか知らないはずだった。だがダーシェア侯爵家に侵入し、令嬢イザベルに見つけられてしまうまでは。サリヴァンは、イザベルを黙らせるため、口付けをし、去った。ところが二人は、翌日に再会してしまう。馬の繁殖家と、その顧客として。
 ところが好奇心旺盛なイザベルはこのことを誰にも言いつけず、むしろ積極的にサリヴァンに接触していく。そして、二人は当時では決して許されぬ、切ない恋に落ちていくのだ。
 ハッピーエンドで締め括られるが、悲恋の雰囲気も漂っている。
 『悪名高き紳士たち』シリーズ、第一作目。分厚いが一気に読める傑作。