FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

暗い鏡の中に/ヘレン・マクロイ

暗い鏡の中に (創元推理文庫)

暗い鏡の中に (創元推理文庫)

 きみとよく似た顔の女が
 魂のスクリーンに映っている
 美しき人と地獄では呼ばれているのだ
 フォスティーヌ
 


 単にヘレン・マクロイに最高傑作というに留まらず、幻想ミステリの中でももっとも優れた作品の一つ。ジャンルを飛び越えても、「ドッペルゲンガー」をテーマとして創造された作品の中で、一際印象に残るのではないだろうか。章ごとに掲げられたスウィンバーンの詩「フォスティーヌ」がいっそう、暗い甘美さを添えている。
 美術教師フォスティーナ・クレイルは自分の影に怯える女だった。どんな学校に勤めたとしても、「もう一人のフォスティーナ先生を見た」という噂が発生し、周囲を恐怖に陥れ、勤務先を追放されることとなるからだ。
 ブレアトン女子学院でも事情は変わらず、解雇され、悩み苦しむ。同僚である友人でもあるギゼラに相談し、ギゼラの恋人でもある精神科医にして名探偵、ウィリングに力を借りることとなる。
 その矢先、学院で殺人事件が発生し、そこで(本来別の場所にいたはずの)フォスティーナを見たという目撃者が現れる。
 社会的な立場という点でも、本人の精神の安定という意味合いにおいても、フォスティーナは次第に追い詰められていく。
 これはなにものかの罠なのか、あるいは本当に分身が存在するのか。
 「ドッペルゲンガー」というテーマの扱いのうまさもさることながら、マクロイの卓越した文章で綴られるヒロイン、フォスティーナの悲劇も大きな読みどころの一つ。
 言うまでもなく傑作。