暗い鏡の中に/ヘレン・マクロイ
- 作者: ヘレン・マクロイ,駒月雅子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/06/21
- メディア: 文庫
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きみとよく似た顔の女が
魂のスクリーンに映っている
美しき人と地獄では呼ばれているのだ
フォスティーヌ
単にヘレン・マクロイに最高傑作というに留まらず、幻想ミステリの中でももっとも優れた作品の一つ。ジャンルを飛び越えても、「ドッペルゲンガー」をテーマとして創造された作品の中で、一際印象に残るのではないだろうか。章ごとに掲げられたスウィンバーンの詩「フォスティーヌ」がいっそう、暗い甘美さを添えている。
美術教師フォスティーナ・クレイルは自分の影に怯える女だった。どんな学校に勤めたとしても、「もう一人のフォスティーナ先生を見た」という噂が発生し、周囲を恐怖に陥れ、勤務先を追放されることとなるからだ。
ブレアトン女子学院でも事情は変わらず、解雇され、悩み苦しむ。同僚である友人でもあるギゼラに相談し、ギゼラの恋人でもある精神科医にして名探偵、ウィリングに力を借りることとなる。
その矢先、学院で殺人事件が発生し、そこで(本来別の場所にいたはずの)フォスティーナを見たという目撃者が現れる。
社会的な立場という点でも、本人の精神の安定という意味合いにおいても、フォスティーナは次第に追い詰められていく。
これはなにものかの罠なのか、あるいは本当に分身が存在するのか。
「ドッペルゲンガー」というテーマの扱いのうまさもさることながら、マクロイの卓越した文章で綴られるヒロイン、フォスティーナの悲劇も大きな読みどころの一つ。
言うまでもなく傑作。