FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

バミューダ海域の摩天楼/柄刀一

 すでに幾人もの名探偵を創造している柄刀一が、また一人新たな名探偵を生みだした。まだ十三歳の少年にあるにも関わらず、工学、生物学、考古学、宇宙物理学など複数の学問の通じ、博士号所有者で、ウェルズリー工科大学の特任教授、Drショーインこと松蔭博士である。これらの設定は、加藤元浩のミステリ漫画『Q.E.D.』の燈馬想や『C.M.B.』の榊森羅を思わせるが、彼らよりも生活能力はずいぶんとありそうだ。
 この幼き名探偵が向かい合う事件の特徴は、とにかくスケールが大きいこと。表紙をめくると、柄刀一の言葉として「挑むべき謎は地球そのもの」という言葉があるほどで、ほとんど伝奇小説やSF小説を思わせるほどだ。
 「バミューダ海域のドラゴン」と「熱波の摩天楼」の中編二作が収められている。「バミューダ海域のドラゴン」は誰もが一度は聞いたことがあるだろう遭難多発地帯「バミューダ・トライアングル」の謎と、それを解き明かす過程で見られたデータとして観測された「ドラゴンを思わせる像」に潜む秘密に迫る。
 「熱波の摩天楼」は磁気観測衛星が墜落するかもしれない……場所はペルー北部。もし磁気観測衛星に、なんらかのウィルスが付着していたら、疫病を人類にまき散らし、パニックが起こるかもしれない。そして当地では、不思議な遺跡が発見されていた。
 『ペガサスと一角獣薬局』の表題作「ペガサスと一角獣薬局」の「ユニコーンの正体」に関して南美希風の立てた仮設を聞いたとき(読んだとき)にも思ったが、柄刀一は「専門知識がない人間は、その知識が正しいのか正しくないのかは判断できかねるものの、解答を聞いたときに思わず納得し、しかも意外性を感じさせてしまう」作家である。
 学問の知識のみならず、「バミューダ海域は事故多発地帯」や「遺跡の呪い」といった伝説をもうまく取り入れてしまう手腕に脱帽。
 また先が楽しみなシリーズができた。

ペガサスと一角獣薬局 (光文社文庫)

ペガサスと一角獣薬局 (光文社文庫)