FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ロマンス/柳広司

ロマンス

ロマンス

 話題作の『ジョーカー・ゲーム』があまり楽しめなかった身としてはおそるおそる手に取った。しかし、こちらの方がよほど楽しめた。
 時代は昭和八年、大正デカダンスの雰囲気を引きずってはいるものの、将来のきなくささもすでに見え隠れしている時代にあり、「華族」という特殊な人間に立場にあるものたちを描いたミステリである。
 ロシアの没落貴族の女性を祖母に持ち、自由奔放な両親に世界のあちこちを連れ回され、日本には戻ってきたものの、なんとなく身の置き所の定まらない美貌の青年子爵、麻倉清彬。彼が殺人の嫌疑をかけられた親友、多岐川嘉人……彼もまた多岐川伯爵家の長男……ら迎えにいくところから物語は幕を開ける。
 のちに特高の刑事が訪ねてきたことから、彼は、自分とそして多岐川嘉人とその妹、万里子が特高に目をつけられているのを感じる。万里子は、その美貌ゆえ国内の華族はもちろん、海外の王族からも求婚を受けるほどの令嬢だったが、「清彬を愛しているから」という理由ですべての縁談を断り続けていた。
 その万里子が「アカ」の疑惑を掛けられ、いきなり投獄された。本人はなにも口を割らず、ただ牢獄の中でときを過ごしている。やがて清彬自身もある危険な計画を脳裏に浮かべるようになっていた。
 殺人事件の解決そのものはなんとなく見当はついていたが、最後の最後である人間関係の秘密が明かされ、驚かされる。また途中で清彬が企てる計画はとどうなるか、サスペンスを感じさせる。
 倦怠感と哀切さに包まれた傑作。