FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

あなたのそばで見る夢は/ロレイン・ヒース

あなたのそばで見る夢は (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション ヒ 1-2)

あなたのそばで見る夢は (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション ヒ 1-2)

 傑作。
 日本の小説家では、乙一が「切なさの達人」と呼ばれているが、ロレイン・ヒースにも同じ敬称を捧げたい。
 南北戦争で、心に(ヒーローのダラスには顔面にも)傷を受けた二人の男女この恋物語は、ひどく切ない。
 舞台は、ロレイン・ヒースのファンにはお馴染みのテキサス。時代は十九世紀後半。
 アメリアは、かつては南部はジョージア州の大農園の娘だった。そして南北戦争で故郷が敗北し、富と家族のすべてを失った。
 ヒューストンは、男らしさを過剰に三人の息子たちに強制する父親によって、十代前半で戦場に連れ出され、当の父親と、片目を含む顔の大部分と、心の一部を失った。そして女性から愛されることを、諦めた。
 テキサスで二人は出会った。牧場主を営むヒューストンの兄、ダラスがメールオーダーブライド斡旋団体を通して花嫁を求め、相手となったのがアメリアで(ダラスもアメリアも、互いに相手の顔などまったく知らず、文通を交わしただけで決めた)、ダラスが骨折したためヒューストンが代わりに駅まで足を彼女を迎えに行くこととなったのだ。
 牧場は、テキサスの僻地でとても淋しいところにある。そこまで数週間に渡る苛酷な旅を、二人は耐えた。アメリアはダラスの花嫁だと決まっていたから、互いにつのってくる恋慕の情にも、耐えた。
 牧場に到着し、見たこともないほど美男で、他者を統率する力があり、優しい心遣いを示してくれるダラスと直接顔を合わせたあとでさえ、無口で、二目と見られぬ醜い傷のあるヒューストンへの恋心が、アメリアの中から消え去らなかった。そして、それはヒューストンの方でもまた同じだった。
 ラストはハッピーエンドだが、それまでの過程は悲恋ものの雰囲気が漂っている。
 ロレイン・ヒースは主役はもちろん脇役を書くのもうまく、お調子者で余計なことを言ってはちょくちょく兄貴達に締め上げられる三男オースティンや、アメリアの本来の夫となるはずのダラスも良く描写されている。「なんだって、ヒューストンとアメリアが愛し合っているって。それでは俺はすぐに身を引くよ」などとほざく、主役達にとってだけ都合のいいキャラクターではない(ロマンス小説でも、こういう奴はよくいる)
 本書は、ロレイン・ヒースの初期の代表作『テキサス三部作』の第一作だという。他の二作のヒーローは、兄ダラスと、弟オースティン。邦訳を切に望む。