婚礼は別れのために／メアリ・バログ

婚礼は別れのために (ヴィレッジブックス)

　リサ・クレイパスといい、サブリナ・ジェフリーズといい、メアリー・ジョー・パトニーといい、どれほど平均点の高い作家でも、ときには「あれ？」と首を傾げたくなるような作品を書く。より率直に言ってしまえば、「他の作品はこんなに面白いのに、なぜこれだけ大して面白くないの」と言いたくなる瞬間がある。メアリ・バログ『婚礼は別れのために』を読んだとき、そう思った。
　メアリ・バログはバースの女学校で教師を務める女性をそれぞれヒロインとした全四巻の“シンプリー・シリーズ”があり、『ただ忘れられなくて』、『ただ愛しくて』、『ただ会いたくて』の三巻までと、このシリーズとゆるやかなつながりを持つ『忘れえぬ夏を捧げて』とが邦訳されており、どれもが秀作と表現できる。
　だが“ベドゥイン・サーガ”の第一作であるこの作品だけ、ものすごくつまらなくはないものの、著者の他の作品のように面白くはない。
　聖女タイプのヒロイン、男臭いヒーロー、魅惑的な脇役（お馬鹿な犬も含めて）が揃っていて、「契約結婚がやがて本当の愛に」というあらすじも、決して外したものではないのに、ストーリー展開がどうもかったるい。
　イヴは進退きわまっていた。父親の死後一年以内に結婚しなければ、彼女は、彼女が雇った、あるいは救い入れた人々と暮らす荘園が性悪ないとこの手に渡ってしまうのだ。だが、彼女の結婚は唐突に決まる。亡き兄を生命の恩人と感じている貴族エイダン・ベドウィン大佐が、兄の死の間際の約束（「妹を守ってくれ」）を守るため、結婚を申し込んできたのだ。形式だけの結婚のはずだった。だが本当の愛と信頼が二人の間に芽生えていく。
　大外れではないが、メアリ・バログを初めて読む人にはお薦めしない一作。バログには素敵なロマンス小説がもっとたくさんあるから。

ただ忘れられなくて (ヴィレッジブックス)

ただ愛しくて (ヴィレッジブックス F ハ 11-2)

ただ会いたくて (ヴィレッジブックス)

忘れえぬ夏を捧げて (ヴィレッジブックス)