FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ある日系人の肖像/ニーナ・ルヴォワル

ある日系人の肖像 (扶桑社ミステリー)

ある日系人の肖像 (扶桑社ミステリー)

 「感動」だとか「泣かせ」だとかの文言を、あらすじに入れているミステリは、まず手に取らない主義だ。だが「感動」だとか「泣かせ」だとかの文言を、あらすじに入れていないミステリにも、「感動」だとか「泣かせ」は、密かに仕込まれた爆弾さながらに隠れており、読むものを打ちのめす。それは不意うちであるがゆえ、余計に効果は絶大なものだ。
 『銀幕に夢を見た』で初めて作者の名前を知り、さして期待はせず読み始めた。しかし凄い作品だった。日系三世で、ロサンゼルスに住むジャッキー・イシダは、亡き祖父フランク・サカイの遺言状に書かれていたカーティス・マーティンデイルという人物について調べ始める。それはかつて起きた黒人暴動の際、祖父の店の冷凍庫に閉じ込められて生命を失った、四人の少年の一人だった。
 ニーナ・ルヴォワルは、過去と現代を行きつ戻りつしながら、ジャッキーの調査を、そしてフランクやカーティス、彼らの周囲の非白人達、つまりはマイノリティたちの生涯と、カーティスの死に隠された衝撃的な真実を、そしてアメリカの現代史を書く。
 『銀幕に夢を見た』も面白かったが、この作品とは比較にならない。
 傑作。

銀幕に夢をみた (PHP文芸文庫)

銀幕に夢をみた (PHP文芸文庫)