FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

音もなく少女は/ボストン・テラン

音もなく少女は (文春文庫)

音もなく少女は (文春文庫)

 初めて読む作家。「主な登場人物」紹介コーナーに、「麻薬密売人」や「ロシア系ギャング」とあるのを見て、「当方に馴染める世界だろうか」と途方にくれたが、これは面白かった。
 翻訳ミステリのプロの私立探偵女性達に負けぬほど、精神的に強靭な女性が何人も登場し、幾つもの事件、幾つもの犯罪へと関わっていく。ともに苦難の人生を歩んできた彼女達の絆はひどく強い。
 一九五〇年。イヴは、麻薬に汚染された町で、貧しい両親のもとに、聴覚障害者として生まれた。母親クラリッサはかつて孤児で、満足な教育を受けることもできず、若くして結婚した。夫のロメインはちんけな小悪党で、耳が不自由なイヴと、彼女を産んだクラリッサを虐待した。やがてロメインは、まだ幼いイヴを麻薬取引に利用しようとする。
 苦悩するクラリッサやイヴの前に現れたのは、キャンディストアの店主フラン。ドイツからやってきた彼女は、かつてナチスによって凄まじい危害を加えられてきた。
 フランはクラリッサにとって、次にはイヴにとって、なくてはならない人間となる。しかしイヴが成長したのちも、ロメインは、そしてロメインのように麻薬を扱う犯罪者達は、彼女達の人生の上に影を投げ落すのだ。
 強く毅然とした女性達に大勢会いたいならば、最適の小説。ミステリとしてのとても面白かった。フランがある男を殺したとされる新聞記事から話は始まるのだが、それがどうストーリーに絡まってくるのか分かったときには、「ああ……」と思った。
 力に満ちた傑作。