FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

伯爵の情熱は海をこえて/ロレイン・ヒース

伯爵の情熱は海をこえて(オーロラブックス)

伯爵の情熱は海をこえて(オーロラブックス)

 『気高きレディの初恋』のラスト近くで登場した、元テキサスのカウボーイ、現在はイギリスの新サクシー伯爵たるトマスがヒーローを務めている。この一冊でも十分に楽しめるが、事前に『気高きレディの初恋』を読んでいた方が、「なぜアメリカ人のカウボーイがイギリス貴族になったのか」という辺りの事情が理解しやすいかもしれない。
 一八八〇年のロンドン。ローレンは、貴族の娘という立場にも、また自分達を取り巻く社交界にも慣れることができずに、いつかテキサスに渡ることを夢見て、お金銭を貯めていた。 というのも、ローレンはかつてテキサスで、農場主の娘として生まれ育っており、現在の地位、つまりはレイヴンリー伯爵家令嬢となったのは、母親がレイヴンリー伯爵と再婚し、イギリスで暮らすことになったからだ。社交界の決まりごとは息苦しく、まだ貴族の世界に慣れないうちに受けた数々の嘲笑も、つらい記憶として残っている。そんなとき、テキサスのカウボーイから、新サクシー伯爵となった男性と顔を合わせたローレンは愕然とする。テキサス時代の、昔馴染みのトマスだ。昔馴染みにして、初恋の恋人でもある。手紙を書くと彼は言ってくれたのに、ローレンが母親とイギリスに渡ってから、連絡はいっさい取ることができなくなっていた。
 十年間という月日など、一切存在しなかったように積極的に迫るトマス。ローレンも、懐かしい土地の香りをまとった、懐かしい男性に、まっすぐに心惹かれていった。
 ヒロイン、ヒーローの境遇や若々しさゆえか、『気高きレディの初恋』のやや薄暗い雰囲気が取り払われ、非常にピュアで初々しい印象を受ける。まだ三冊しか読んでいないのだが、色々なタイプのヒロイン、ヒーローが書ける作家のようだ。
 テキサス、イギリスの両方の土地に愛を感じさせる作品だと思ったら、ロレイン・ヒースは父親がテキサス人、母親がイギリス人、イギリス生まれでテキサス育ち、現在もテキサスに住んでいるとのこと。納得。

気高きレディの初恋 (オーロラブックス)

気高きレディの初恋 (オーロラブックス)