悪魔のいけにえ／トビー・フーパー監督

悪魔のいけにえ 特別価格版 [DVD]

　私はいい年をしており、しかもこれまでに百本を超えるホラー映画を見ている。であるにも関わらず、吐き気を催すほどの恐怖を感じた。賞賛の意味で言うが、これほど異常な映画に出くわしたことは、これまでにない。
　ロバート・ワイズ監督『たたり』、イアン・ソフトリー監督『スケルトン・キー』、Ｊ・Ａ・バヨナ監督『永遠のこどもたち』……これまで美しいと思ったホラー映画はある、驚いたホラー映画もある、面白いと思ったホラー映画もある、中には感動さえしたホラー映画さえある。
　だが、ここまで純粋に恐怖のみを感じたのは、この『悪魔のいけにえ』のみである。
　こんなホラー映画の金字塔とも呼べる作品で、デビューを飾ってしまったトビー・フーパーは、果たして幸福だったのか、不幸だったのか。
　ストーリーは滅茶苦茶単純。アメリカのテキサス州にドライブしながら帰郷した若い五人の男女が、短時間のうちに殺人鬼一家に次々と生命を奪われていく。本当にこれだけ。この無残で狂気に満ちた出来事が、ひどく淡々と語られる。これほどグロテスクな物語なのに、終わり方もひどくあっさりとしている。
　見ていて、一つ疑問を感じたのが「最後までただ一人生き残った女の子を、最初に助けてくれたアフロヘアの運転手は、うまく逃げられたのだろうか」。思わず検索をかけて調べてしまったのだが、皆さん同じような疑問を抱いているようだ。無事だといいのだが。
　人間の持つ根源的な悪夢を、一つの映画作品として結晶化させたがごときの大傑作。

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