FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

夏至の森/パトリシア・A・マキリップ

夏至の森 (創元推理文庫)

夏至の森 (創元推理文庫)

 豊かな詩藻で綴られた逸品『冬の薔薇』の続編である。
 自動車や携帯電話など、機械文明が発達した現代。それでもシルヴィア・リンの故郷、森に抱かれたリン屋敷の間では、彼らは存在している。
 彼ら。妖精。この物語では、妖精を配偶者や恋人にしたもの、妖精と人間の混血であるもの、妖精たちによって異界に連れ去られもの、もしくは周囲に知られぬ間に妖精の子と取り替えられた人間の子などが次々と登場する。
 祖父が亡くなったという知らせを受け、大都会で暮らすシルヴィアは七年ぶりに故郷に帰り、リン屋敷に足を踏み入れた。彼らの存在が色濃く影を落とすこの地では、身や家を守るためリン屋敷の後継者となるものは必ずしなくてはならない儀式がある。またシルヴィアの祖母アイリスが主宰している村の女たちの繊維ギルドもまた、彼らから身を守る力がある。
 シルヴィアが故郷に帰ってから、彼らや彼らの世界と接触が続き、森を侵そうとするものが現れ、やがてアイリスと妖精女王、二人の女性が顔を合わせるときがやってくる。
 この「二人のふるつわものの女王」同士の対決シーンは白眉。妖精の女王も、『冬の薔薇』の強く無慈悲な印象とはまた異なる、「黄金の夏の女王」としての側面を見せており、興味深い。
 こちらも素晴らしい。『冬の薔薇』とあわせて、ぜひ。

冬の薔薇 (創元推理文庫)

冬の薔薇 (創元推理文庫)