FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

遊星からの物体X/ジョン・カーペンター監督

 久しぶりにこの言葉を使う。大傑作。評判は聞いていたが、まさかここまで面白いとは思わなかった。
 クリスティアン・ナイビイ監督『遊星よりの物体X』のリメイクで、ジョン・W・キャンベル・Jr『影が行く』が原作だが、当方は残念ながらオリジナルにも、原作にも触れたことがない。
 氷雪に閉ざされた、南極基地。通信機能はなぜか働かない。この気候という点でも、人間関係という点でも、ひどく閉鎖的な土地に紛れ込んだのは、十万年も前にUFOで飛来したエイリアン。捕食した相手に姿を変えることのできるこの化け物、放っておけば人類を破滅させること間違いなしのこの化け物が、アメリカ基地の隊員たちにもたらした恐怖と戦慄は予想だにしないものだった。
 南極の真っ白な大地を駆けていく一匹の犬。それをヘリコプターから狙撃しようとひたすらつけ狙う、ノルウェー人の隊員。この出だしからして不吉で、美しくて、度肝を抜かれる。追い追われる一人と一匹を見つけたアメリカ人の隊員たちは仰天するが、ノルウェー人がなぜアメリカ人隊員たちを巻き込んでさえ犬の殺害をもくろむのか、そしてノルウェー人がアメリカ人の隊員に切迫した表情でなにを叫んでいるのか、アメリカ人達にも、視聴者にも、そのときは理解できない。
 やがてアメリカ人達は自分達の身を守るために、やむなくノルウェー人を殺した。そして犬を基地に引き入れる。そののち、なにが待っているかも知らずに。
 エイリアンの殺戮も、その変身シーンも派手なものだが、なによりも怖いのが、「エイリアンが、人間、そして動物に変身できる」という能力を持っている点である。
 それまでは、多少のいざこざはありつつも強い結束を誇っていただろう隊員たちの心を、「誰がエイリアンか分からない」という疑惑が蝕み、彼らの間で対立が起こっていく。隊員たちはエイリアンを退治し、生き残ろうとあがくものの、一人、また一人と生命を失っていく。このサスペンス、比類がない。
 これまでジョン・カーペンター監督の最高傑作は『ザ・フォッグ』かと思っていたのだが、考えを改めた。彼の最高傑作は、この『遊星からの物体X』だ。
 今更言うまでもないが、このジョン・カーペンターは天才である。あまりに怖いという評判だったため、情けなくも『ハロウィン』を見逃してしまった自分の過去が悔やまれる。
 今年、二〇一一年に、この映画の前日譚、すなわち全滅してしまったノルウェー人隊員側を描いた映画が作られるとのことだが、楽しみである。

遊星よりの物体X [DVD]

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影が行く―ホラーSF傑作選 (創元SF文庫)

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↑あまりに怖いという評判なので、見ずじまい↑これも傑作