FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

気高きレディの初恋/ロレイン・ヒース

気高きレディの初恋 (オーロラブックス)

気高きレディの初恋 (オーロラブックス)

 初めて読む作家だが、なかなか面白かった。
 ヒストリカルロマンス小説も、立て続けに何冊も読んでみると、次第に作家や作品の印象がごちゃごちゃになってくるものだが、この『気高きレディの初恋』はどことなく乾いた雰囲気や、単純なハッピーエンドとは言い難い結末によって、強い印象を受ける。万人受けをするかどうかを別として、際立った個性を有する作家なのだろう。
 若く美しい第六代サクシー伯爵未亡人カミラ。貧しくつらい境遇で育ってきたカミラの今後の望みは二つ、誰か公爵と婚姻し、公爵夫人となることと、そして現在自分が教育係を務めている新しいサクシー伯爵アーチボルドに相応しい花嫁を見つけることだ。アーチボルトは前代伯爵が亡くなり偶然爵位を継ぐこととなった身だった。それほど豊かではないが、ぬくもりある家庭で育ち、それまでは教師として働いていた。つまりは貴族社会とは、まったく無縁の存在だったのだ(ロマンス小説では、男性が生まれながらの富豪や貴族というパターンが比較的多いので、これも新鮮である)。
 二人は惹かれ合うものの、前述のカミラの二つの願いのため、その恋はなだらかには発展しない。
 読み始めたときは、カミラのあまりの野心家ぶりにいさかか鼻白むが、他のロマンス小説にわんさかある「愛も、富も、社会的地位も手に入れる」以外の結末を迎えたときにはそれらは気にならなくなっている。
 癖はあるものの、面白かった。
 これは他の作品を読むのが楽しみな作家。