FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ブラックランズ/べリンダ・バウアー

ブラックランズ (小学館文庫)

ブラックランズ (小学館文庫)

 発売された直後、二〇一〇年十月に読んでおくべきだった。そうしたら、昨年末には、この本を「二〇一〇年に読んだ、もっとも面白い本の一冊」とブログに書けていたのに。
 家族の再生を願う少年が、事件の真相を追い続けるというテーマは、ジョン・ハートの傑作『ラスト・チャイルド』を思わせる。また主人公と狂人の運命が、思わぬ形で絡むこととなるストーリー展開は、最近翻訳がめっきりされないルース・レンデルの諸作品を連想させられる。レンデルよりもずっと救いがあり、爽やかなラストが待つ作品ではあるものの。
 児童連続誘拐殺人犯アーノルド・エイヴリー。彼の被害者の一人に、ビリーという十一歳の少年がいた。ビリーが殺され、エイヴリーが逮捕されてから、十九年の月日が経過するものの、ビリーの亡骸はいまだ見つからなかった。そしてビリーの家族にとって、事件は終わらなかった。ビリーの母親グロリアは肉親にも心を閉ざし、ビリーの姉レティはみずからが子を産んでも鬱々とした気持ちで生活をしていた。レティの息子、十二歳のスティーヴンは、ビリーの死体が見つかれば、事件は終わり、家族が幸福になるのだと信じ、独自の調査を始めた。
 そしてスティーヴンは、母を含めて大人たちに隠れ、獄中のエイヴリーに暗号めいた手紙を送り、ビリーの死体の場所を尋ねた。刑務所の中でつまらない日々を送っているエイヴリーは、手紙におおいに好奇心をそそられた。やがてスティーヴンとエイヴリー、二人の奇怪な文通が始まることとなる。
 外見も、言っていることがまともで、どこか能天気な印象さえ与えるものの、やってることは鬼畜そのものという、子供大好き殺人鬼エイヴリーの描写が変に生々しくて怖い。
 作者べリンダ・バウアーは小説としてはこの『ブラックランズ』が処女作ではあるが、すでに脚本家としてはキャリアを積み、活躍しているとのこと。納得。

ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)